名古屋高等裁判所金沢支部 昭和58年(ラ)42号 決定 1984年2月13日
抗告人
Y
右代理人
長谷川紘之
相手方
X
主文
原審判を次のとおり変更する。
抗告人は相手方に対し長男Aおよび長女Bの養育費を含む婚姻費用として金九七万二四六六円を即時支払い、かつ、昭和五九年二月から抗告人と相手方間の別居解消または婚姻解消に至るまで各月末限り一ケ月金八万九三九六円の割合による金員を支払え。
理由
一本件抗告の趣旨及び理由
別紙「即時抗告の申立書」及び「申立の理由の補充」(写)記載のとおり。
二当裁判所の判断
1 本件記録(当裁判所書記官の電話聴取書を含む)によると以下の各事実が認められる。
(一) 抗告人と相手方は昭和四八年一一月八日婚姻をした夫婦であつて、その間に昭和五〇年一一月九日長男A、同五二年一月六日長女Bが出生した。
(二) 昭和五七年五月頃相手方が抗告人経営の寿司店の店員と不貞行為を重ねていることが発覚し、同年七月頃抗告人は右店員を解雇し、同人より慰藉料二〇〇万円の支払いを受けた。
(三) しかしながら右事件後夫婦間は円満を欠く状態となり同年一〇月七日には抗告人が金沢家庭裁判所に夫婦関係調整の調停を申立てていたところ、同月二七日頃相手方と前記不貞行為をなした店員が行動を共にしているところを抗告人が目撃するに及んで夫婦関係は更に冷却化し険悪となつた。
(四) 同年一二月一三日相手方は二子を連れて抗告人方を去り金沢市内のマンション(家賃月額七万円)に別居し、抗告人は同月分の生活費として相手方に金一六万五〇〇〇円を送金したが、昭和五八年一月右調停は不成立となつた。
(五) 同年一月以降抗告人は相手方に対し送金しなかつたため相手方は生活費に窮し同年三月実家の両親方に二子と共に転居し、同年四月一九日本件婚姻費用分担の申立をなし、同年七月末日より父の経営する飲食店の責任者として働いている。
(六) 抗告人は同年九月二二日相手方を被告として金沢地方裁判所に離婚、慰藉料支払等を求める訴を提起し現に係属中である。
(七) 抗告人の寿司店経営者としての収入は月額約三〇万円、一方相手方は別居後昭和五八年一月以降抗告人よりの送金がないため、同年三月二子とともに実家に転居し、生活費の全部を両親に依存する暮しであつたが、同年八月以降は父の経営する飲食店の業務を任かせられ、父から月額約八万円の給料を得ている。
2(一) 以上の事実関係によると、当事者双方が別居に至つた原因については相手方に主要な責任があるものといわざるを得ないところ、抗告人の未成熟の二子に対する養育費の負担については右責任の所在が何れにあるかにかかわらず、子供が親と同程度の生活を保持するための費用を分担する義務があるものであるが、右別居につき責任を有する配偶者である相手方自身の生活費については右と同様に抗告人の分担義務を定めることは相当でない。
(二) しかるところ、相手方の養育している未成熟の二子の養育費として抗告人の負担すべき金額については、当裁判所も原審と同様に判断するので、原審判理由2(二)イに説示するところを引用する。
(三) 次に相手方自身の生活費として抗告人の負担すべき金額について検討するに、相手方が金沢家庭裁判所に本件申立をした昭和五八年四月一九日以降同年七月末日までの期間は別居後間もない時期に当たり、無収入の相手方がみずから稼得する途を探求するなど生活の建直しに少くとも必要相当の期間であると考えられるから、右期間中の生活保障は抗告人に求めるほかないこと、しかし抗告人と相手方との夫婦関係が破綻し別居に至つた責任が主に相手方にあつたこと及び相手方は同年三月以降二子とともに実家に同居し、生活の面倒をみて貰つてきたことなどの事情に照らすと、右期間中においては相手方自身の生活費の分担として原審判理由記載の生活保護法による生活扶助基準月額金三万八二七〇円の割合の金員は抗告人に負担させるのが相当である。しかしながら同年八月以降のものに関する部分の申立については、相手方は同月以降自己の労働により右生活扶助基準月額を超える月額約八万円の収入を得ているが、右収入も父親の飲食店の業務を任かせられていることの報酬であり、また同居先の実家から開店日に右飲食店に出向いて働いているなど生活も一応安定した状況にあるほか、別居に至つた事情、その責任の所在が前述のとおりであるなどの点を勘案すると、相手方が収入を得るに至つた昭和五八年八月以降相手方自身の生活費の分担を抗告人に求める申立の部分は認めることができない。
3 以上の次第であつて、抗告人は相手方に対し、長男、長女の養育費を含む婚姻費用として、昭和五八年四月一九日から同年七月末日までの分として計金四三万六〇九〇円、同年八月一日から支払期日の到来した昭和五九年一月末日までの分として計金五三万六三七六円の合計九七万二四六六円を即時支払うとともに、昭和五九年二月以降、抗告人と相手方の別居又は婚姻解消に至るまで月額金八万九三九六円の割合による金員を毎月末日限り支払うべきである。
よつて、本件抗告は一部理由があるので、家事審判規則一九条二項により右と結論を異にする原審判を変更し、主文のとおり決定する。
(山内茂克 三浦伊佐雄 松村恒)